Tenalice-ambidextrousの3Dプリントケースについて

0.はじめに

今回は中央にあるナナメ45度のテンキーが特徴的な”Tenalice-ambidextrous”の3Dプリンタケース作成に挑戦したというお話です。宜しければ最後までご覧ください。

1.Tenalice-ambidextrousとは?

”Tenalice-ambidextrous”は、中央に45度角で配置されたテンキーが特徴的なAlice配列・Row-staggerdの50%(40%+10%)キーボードです。(通称Ambiさん)

”Tenalice”は”Tenkey+Alice”をくっつけた造語で、”ambidextrous”は、英語で両利きという意味です。

一体型のキーボードでありながら、分離キーボードのように左右が広がり肩が開き、また基本は40%キーボードでありながら、中央テンキーにより数字入力にも強いレイアウトを目指した設計となっています。

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2.設計の背景

自作キーボードを作る人は誰もが憧れるであろう自作ケース。私も例にもれず憧れをもっていました。ただそういったスキルや知識は全然ありませんので、以前の記事で書いたトラックボールモジュール同様、夢のまた夢だなぁと考えていました。

ところが某キャンペーンで作成した自称名刺サイズキーボードの”Ambi10”を作成したとき、収納するケースが欲しい!ということで、単純な構造の3Dプリントケースの作成にチャレンジしてみることにしました。Fusion360の機関車チュートリアルで一から操作を学び、試行錯誤しながらなんとか完成させました。

作る工程や作り方がなんとなく分かった私は、キーボードのケースに挑戦してみることにしました。

3.設計(試作)

KiCADのデータをもとにして、以下のステップでケースを設計していきました。

  1. Kicadからstepファイルを作成する
  2. stepファイルを3DCADソフトへ取り込む
  3. ケースを設計し、stlファイルを出力する

1.Kicadからstepファイルを作成する

出力するPCBやプレートだけにし、ファイル>エクスポート>STEPを選択してエクスポートします。

2.stepファイルを3DCADソフトへ取り込む

私の場合は3DCADソフトとしてFusion360を使いました。Fusion360へSTEPファイルをアップロードし、同じ流れでスイッチプレートやボトムプレートなども取り込みます。

3.ケースを設計し、stlファイルを出力する

スケッチ作成→ケースを形づくる線分や図形を描き、押出や切り取りなどを駆使してケースを作成します。

工夫したポイント

Alice配列では中央が割れてナナメになっている分、外周が長方形にならず出っ張りがあります。Ambiさんもテンキーがありますが同じようになっています。

この部分が実は馬鹿にならない

今回はチルト角に合わせて出っ張りもカットすることで接地面が平らになるように工夫しました。

断面図が分かりやすい
工夫したポイント2

ボトムケースは背面にネジ穴をあけて留めるとして、トップケースは穴が見えないようにしたいという気持ちがありました。

いろいろな方法を考えてみましたが、造形のスキルが低いことから、百円ショップで販売している小型のマグネットを使うのが一番ハードルが低いと考えました。これなら、それが収まる穴(空間)をトップケースに仕込むだけです。

あとはスイッチプレートの同じ位置にマグネットがあれば引っ付きます。

工夫したポイント3

”Tenalice-ambidextrous”といえばたくさんのLEDで構成されたアンダーグロー。これを魅せる構造も取り入れたいと思いました。ふとAmbi10を見ているとレジン(白)はLEDを柔らかく光を透してくれていました。

これをそのまま活かせれば、ということでトップケースを少し短めにしボトムケースが見えるような感じにしました。

4.試作

JLCPCBさんの3Dプリントで発注し2週間ほどで到着しました。

さっそく取り付けてみました。ところが...

入りませんでした。汗

結論から言うと、設計の途中でケースの強度を気にして外周を太くしたとき、内側にも太らせてしまったのが原因でした。

悔しいと思いつつ、はじめはそんなに上手くいくはずもないとも思っていましたので、とりあえず我慢できずに切断堂さんへ発注したブラスプレートと合わせてみました。

そこでもミスを発見。左のこの部分がキレイに”無い”ではありませんか。

これには驚愕しました。気づかないものです...。

PCBは入りませんでしたが、アンダーグローのイメージは確認できました。いい感じです。

最終的にはリューターを使って地道にボトムケースの干渉部分を削り、なんとかキーボードケースとして使えるようにしました。

これでしばらく運用してみて、課題があればそれを次回作へ反映しようと考えました。

5.修正

試作から得た課題は次の通りでした。

  1. PCBが入るようにする&プレートの左下を直す
  2. もっと丸くかわいい感じにしたい
  3. もっとアンダーグローや中央のLEDを映えさせたい

これらについて修正していきます。

1.PCBが入るようにする&プレートの左下を直す

これは言わずもがな。そもそもPCBやスイッチプレートのオブジェクトを設計の基にするだけで、最後に合わせて確認しなかったような(汗)。今回はきちんと合わせながら再作成しました。

 

2.もっと丸くかわいい感じにしたい

当初は角ばったカチっとしたケースを作る方針だったのですが、素材が金属とは異なるためか、思っていたほどクールな印象を感じなかったです。で、あればむしろ角を丸めてかわいい感じのほうが似合う気がしました。

そこでフィレットを大きく丸くとるように修正しました。

また、小さくすることで可愛らしさを演出しようと、トップケース、ボトムケースの外形の厚さを5mmから2~3mmに変更してみました。強度は落ちますが、5mmケースを触っていると十分に成立するような気がしました。(のちのち気のせいだと気づきますが…)

3.もっとアンダーグローや中央のLEDを映えさせたい

試作ケースでは思ったよりもアンダーグロー映えしていませんでした。これはもっと大胆にトップケースをカットする必要があると考えました。

そこで大きくえぐるような円を用いてアーチを作ってみることにしました。

背面もUSBの口に沿って大きくえぐります。

これで再度発注してみました。

6.完成

完成したものがこちらです。

角を丸くした形状とすることでかわいくなっています。(当社比)

アーチの形状も良い感じ。

PCBもすっぽり入るようになりました。

トップケースの裏に向きを間違えないようにして接着剤で磁石を接着。スイッチプレートの裏側にも同じ位置に磁石を取り付けています。

ボトムケースにはゴム足を貼り付け。

キーキャップ、トップケースを装着して完成!!

LEDを点灯。

狙い通りケースの厚みを抑えることで中央LEDの光が回り、アーチ型とすることでアンダーグローも映えています。

うん!やっぱりAmbiさんはこうでないと!

動画も撮ってみました。

こちらは思い付きでQMKのLEDアニメーションをまとめた動画を作ってみたやつです。

最後にしばらく使ってみた感想を少し。

やはりケースの有無は見た目、打鍵感、打鍵音に大きな影響があります。素材による違いはありますが、3Dプリントケース+ブラスプレートの組み合わせは見た目も打鍵も気に入りました。ちょっと気になるところとしては、ブラスプレートは酸化しやすいので、私みたいにマメでない性格には不向きだというところ。

右下のCtrlキーとトップケースにわずかですが干渉がありました。3Dプリントの誤差を踏まえて通常よりも気持ち広げて作図したのですが、それでも全体的に左右に伸び広がったような仕上がりでした。これはおそらく、小さくかわいくする方針で「厚みをかなり減らした」ことに起因して強度が足りないからかなと想像しています。

そういえばJLCPCBさんへの発注時にも「曲がる可能性があるから厚みを最低3mmにした方がいい」と忠告されました。「デザイン重視なのでリスクは許容するからそのままいってくれ」と返答して強行しましたが、結果的には強度はたしかに弱くギリギリ許容範囲、持ち運びにはちょっと不安みたいな感じです。

あとトップケースについては、想定よりもボトムケースとの間の隙間が開いている感じです。製造誤差も考えて入らないよりは…と広めにしたのですが、ここはもっとギリギリを攻めた方がよさそうです。(設計、ムズカシイ…)

上:試作ケース、下:今回のケース

マグネットによるトップケース装着はすぐに取り外し可能な点や、ちょっと位置をずらすという点では優秀だと思いました。ただ、今回のブラスのように重たい素材でできたプレートで、ダイソーの小型の磁石が上下に8個ずつではキーボード全体は持ち上がらなかったです。もっと設計や技術を勉強して他の方法でしっかり留めれるようにしたいですね。

と、けっして完璧ではありませんが、致命的な欠陥はなかったりして、個人的には出来上がりに大変満足しています。

6.おわりに

以上”Tenalice-ambidextrous”用3Dプリントケースを作成したというお話でした。

今回作成したいろいろ問題もあるケースですが、BOOTHにてSTLファイル、スイッチプレート用SVGファイルを無償ダウンロードできるようにしました。ご利用者の責任で発注に使用いただけます。

※一部スイッチの干渉する部分は直しましたが、それ以外はそのままです。いろいろ触るともう一度発注して確かめないと怖くなってしまうので...ご了承ください

cerbekoskeyboard.booth.pm

ちなみにですがTenalice-ambidextrousをお持ちでない方もPCB単品を購入し、ケース・プレートをお好きな素材で作成いただくことで同じものをつくることができます。

cerbekoskeyboard.booth.pm

なお、本ブログ中にも出てきましたが、ケースを自作される場合は以下についてご了承の上お願いいたします。

  • 小型磁石によるトップケースの装着であること
  • ケースの厚みが2mmで弱く持ち運びなどには不向きなこと
  • ケース製造時に歪曲のリスクがあること

ちなみにTenalice-ambidextrousに付属する11mmスペーサーよりも13mmスペーサーの方がきれいに収まりました。

それでは、良いキーボードライフを。